第三回「社宅は高級住宅街」
研修期間中に、人事部から社宅の連絡が来た。 札幌の宮の森という地名。ワンルームで、〇△宮の森マンションと住所がメモされていた。 「札幌の一番の高級住宅街は、宮の森だよ」 研修中に小樽商科大出身の同期が教えてくれた。 なにっ‼ 高級住宅地! 何でほっきゃーどーなんて地の果てにと落ち込んでいた俺の頭に、一粒の光がともった。 ワンルームで、高級住宅地のマンション……。 ひょっとして俺は期待されているかも。 それが錯覚だったと気づいたのは、着任した初日に総務の先輩に社宅に連れて行かれた時だった。 「ここだよ、社宅は」 笑顔のいかした先輩だった。 「へっ……これ、マンション?」 確かに建物の入り口には「宮の森マンション」と書いてあるが、建物は木造モルタルの二階建て。しかも外壁はひび割れている。 思わず口から出てしまった。 「サッポロはね、木造アパートもみんなマンションって言うのさ」 総務の先輩が、いかした笑顔で教えてくれた。 部屋はギシギシと音を立てる階段を上った二階の奥。しかも四畳半のたったの一間! そして驚いてしまったのは、部屋にトイレも風呂も無い! 風呂は近所の銭湯でトイレは何と共同便所だった。 地方出身の下宿の大学生じゃあるまいし、風呂桶持って銭湯! それじゃかぐや姫の神田川じゃねーか!! やっぱり俺はイロモノ・シリーズだ。 総務の先輩は、「キミは最終面接の時、役員に寝るところがあればどこへでも行きますと言ったらしいね。北海道支店にもその話が届いて、頼もしいのが来ると評判だったよ」 そ、それはウソも方便ってやつで……。 「全国転勤があるけど、大丈夫ですか?」と聞かれたからそう返しただけです……。 そういえば、内定貰った石油関係の会社の最終面接の時、「学生時代に何をやったか」と聞かれ、 「格闘技とエッチと読書です」と答えたのを覚えている。 気を引こうとしての発言が、一瞬にして室内を凍らせた。失笑ってやつ……。ところが沢山いる役員の中で色黒のすげーオーラのある方が、笑いながら「いっぱい遊んだようだね」と切り出し、「本はどのくらい読んでるの?」と聞いてきた。 読書量だけは半端の無かったから「年間200冊くらいです」と答えた。 それから「これは読んだ?」「感想は?」といろいろと聞かれ、明確に答えたのを覚えている。 「どうやら読書量はかなりだね。ナンパのこともいろいろ聞きたいが、面白い青年だ」 結局その会社も内定を貰ったが、振り返ってみれば、自らがイロモノ・シリーズを宣伝していたようだった。
